ももんじ通信

ライフログ的なにか

当日券に並ぶはなし

観劇を趣味にしていると、当日券に並ぶという瞬間が訪れる。大抵の当日券は並ばずに買うこともできるが、稀に特に人気のある公演となると、並ぶという手続きが必要になるのだ。

当日券の並び方にはいくつか種類がある。

まず、抽選式の当日券。これは超超人気な公演(ジャニーズが出演しているなど、特定のファンが集中する場合)に多い。集まった希望者にくじを引かせその番号に応じて当日券の販売順を決めるのだ。この場合、並ぶのはくじを引くためである。

次に、公演ごとに当日券を販売する場合がある。たいていは開場時間の1時間前に販売が開始され、原則としてそれより前に列を形成することは禁止されている。まあ、あくまで禁止されているだけで、自主的に並ぶ人はかなり多いのだが……。並ぶ時間は1時間前後であり、座り込みが禁止される。許容できる長さの時間のため、並んでいる面々も大人しくしている。

最後に、その日の公演のチケットが何枚出るかがわからないため、買えるまで並び続けるというイレギュラー中のイレギュラーなチケット販売がある。これは、某人気俳優さんのK伊國屋ホールでの一人芝居の当日券販売で唯一体験したことがある。

その日は3公演開催され、何も知らない私はサイトで確認して朝イチの公演の当日券販売時間を考え午前8時過ぎには窓口に向かった。まさに長蛇の列で、幾度となくその日に何枚チケットが出るかわからないと告げられたのを覚えている。朝の公演のチケットが売り始められると、店舗の階段に並ばされた列がどんどん短くなって行くので期待はしたが、あっけなく売り切れ。昼の回では5人前で切られてしまい、その時点で既にフルタイム勤務くらいの時間は立ち続けている状態だった。耐えきれず、列に並んだ客がひとり、ふたりと座り込み始める。確かに座り込みは禁止されているが、あくまでこちらも客である。何時間も売られるかわからないチケットのために立ちん坊で並んでいるのだ………。そう思い始めた刹那、チケットセンターの奥からロマンスグレーなおじさんが飛び出してきたかと思うと「座り込まないで!ダメダメ!立って!」と列に向かって声をかけ始めた。わたしは愕然とした。足はもはや棒のようで、さらに言えば飲み食いも出来ないため、喉はカラカラお腹はペコペコだった。

こうなればもはや意地だ。無言のまま連帯感を強めた列は、座り込まないギリギリのラインで体を壁に預けるという選択を取った。低い姿勢でめいめいに時間を潰す列に30分もしないうちに座っても良いという許可が下りたのは、ひとつの勝利のように感じた。

いま思えば、なぜその公演は抽選で当日券を売るという手段を取らなかったのだろうかと甚だ疑問である。劇場のあるフロアの店舗の廊下にズラリと行列をつくり、朝から晩まで座り込みを規制しながら耐えさせる必要は果たしてあったのだろうか。単にノウハウが無かったのか、抽選はしない主義だったのか………今となっては真相は藪の中である。